2017年6月~8月に、大手食品飲料メーカーにて「思考面強化ワークショップ」を実施しました。
これは、「イノベーション」を起こせる“思考”を持った人材をさらに輩出したいというお客様の想いに応えた、オリジナルプログラムです。
このプログラムでは、参加者それぞれの職場にあるノーム(暗黙的なルール)に気付き、
ノームに捉われず、
枠組みを超えた「イノベーション」を起こす“思考“を組立て、
プランを立てる、
というところまでお手伝いさせていただきました。
プログラム参加メンバー全員で設定したゴールの一つが、
『このチームメンバーの誰かが「イノベーションアワード」(後述)を取る』
でした。
それぞれがそれぞれのテーマでこのゴールを目指すべく、職場に戻り、プランに取り組みました。
その結果、メンバーの中の一人、Tさんが取り組みの成果を認められ、見事4803件もの事例の中から「2017年度金賞」を受賞しました。
いったいどのようにして「イノベーション」を起こしたのでしょうか。詳しくお伺いしました。
インタビュー
―金賞受賞おめでとうございます!今回受賞された「イノベーションアワード」というのは、どういった賞になるのでしょうか?
まず、わが社は「イノベーション」を「顧客の潜在的問題の解決」と定義しています。
つまり、顧客が気付いていない問題点を探して、そこに対するソリューションの提案をして価値を創造していくことです。今まで気付いていない問題に対するソリューションなので、世の中に無かった新しい価値のあるものを生み出すということになります。
それがイノベーティブなアイディアです。
そういったアイディアとそれを実行して検証した結果を募集するのが、「イノベーションアワード」となります。
今回は、4,803件の応募がありました。年々応募数は増え、過去最高の応募数の中での金賞受賞でした。
―今回の受賞事例は、新聞販売店さんとの協同ビジネスになると思うのですが、そこに「問題」を発見したきっかけはなんですか?
私たちの取り扱っている商品の1つに「コーヒーマシン」があります。
メインユーザーは、30代・40代です。このコーヒーマシンをどうすれば普段からコーヒーを多く飲用しているシニア層に利用してもらえるだろうかと考えていました。
コーヒーを飲んでいるシニアの方々は多いのに、美味しいコーヒーが簡単にできるコーヒーマシンは我々の期待するほど利用されていないのが課題でした。
ある時、実家の母親にコーヒーマシンを贈りました。その数か月後に実家に帰ったら、驚くことに封を開けずに箱に入ったままでした。『どうして使っていないの?』って聞いたら、『美味しくなるのは分かっているけど、使うのが怖い!変にボタンを押したら壊れちゃうんじゃない?』
この会話で、シニア層に普及しない原因の1つに、マシンは複雑で自分たちにとっては使うのが難しいものだと潜在的に思ってしまっていることがあると考えました。
その時、シニア層には、このマシンの使い方を設置から含めて丁寧にレクチャーすればいいのではとひらめいたのです。では、レクチャーをするのはどういった人がいいのかなとさらに考えてみました。
仮説として、シニアの方たちにとっては日々顔を合わせている人たちであれば信頼して真剣に話を聞いてくれるんじゃないだろうかと考えました。そして、新聞の配達や集金の人なら、普段よく顔を合わせているので、これに当てはまるなと思ったのです。
いまだに新聞の集金って半数以上の方は振込みやカード決済などではなく、対面集金をしているんですよ。そして、対面集金で料金を払っているほとんどの方がシニア層だったんです。
ということで、新聞配達の人たちに説明してもらうことが最も効果的なのではと考えました。
早速、新聞販売店の現状を調べてみたら、彼ら自体もある課題を抱えていました。
新規購読契約者獲得だけでなく、新聞購読契約者に解約されないために、日々コミュニケーションを取る努力をされていたのです。
仮に、新聞配達員やその営業の方々が契約者の方々に「コーヒーマシン」をご紹介するような仕組みがあると、そのマシンの説明やメンテナンスを理由にお宅に訪問できるので、日々のコミュニケーションを増やすことにも、顧客満足度を上げることにも貢献できるのではと考えました。
この取り組みは新聞社にとっても新しいコミュニケーションや、ひいては収益源の形になり、双方にとってメリットのある取り組みになるなと思ったのです。
―ここまでうまくいっている話を聞かせてもらったんですが、逆にこの取り組みをする上で苦労したとか大変だったといったことはありますか。
この取り組みは、新聞社が当社から製品を仕入れて販売するということになっています。仕組みはシンプルですが、製品の納価・売価の設定、オーダーから納品までのリードタイム、現状の物流網にこの仕組みをどうやって組み込むのか、など、サプライチェーンの仕組みを作るのが大変でした。
―社内で部署を飛び越えての調整は大変だったんじゃないですか?特に気を付けたことはありますか?
Face To Faceでの社内コミュニケーションを意識しました。単なるお願いではなく、一緒に問題解決をしていきましょうという「想い」と「熱」を伝えたかったのです。
メールだけで『これやってください』ではなく、対面で『こういうことに困っているので相談させてください』と持ちかけると、『じゃあ、やるためにはどうしたらいいの』ってみんな協力してくれる。そういう風土が社内にはありました。
社内調整だけでなく、また、その新聞社側にも新しい仕組みを作ってもらわないといけないため、どうしたらそんな手間がかかることを実行してくれるか、ということも併せて考えました。
―なかなか二つ返事ではいかないですもんね。これは、新聞社さんとの間で信頼関係を作らないといけないじゃないですか?どうやって信頼関係を作ったんですか?
社内の調整も必要なため、まずはアクションを非常に早くすることを重視(意識)しました。
そうすることで、『この人に言ったら、何とかしてくれる』という信頼関係を構築することができたのだと思います。
実は当初、別の地方の新聞社と取り組もうと思っていたんです。地方の新聞社の方が実行するアクションが早いと思ったんですよ。この取り組みはまったく新しいものなので、まずは実行してみてからPDCAを回していこうと考えていました。
ですが、相手に納得して実行していただくことは、想像していたよりはるかに難しかったです。
その話を社内のいろいろな部署に相談していたところ、ある部署の関係者が『こちらの新聞社なら新しい収益・ビジネスモデルを作る部署が立ち上がったところだから、一回担当者と会ってみないか』という話になったんです。
―社内の人にも相談して回っていたんですね?
そうです。いろいろな部署に相談していました。
アイディアは結構出るんですけど、それ(アイディア)を実行に移すことの難しさを改めて感じました。
―話は変わりますが、以前受けられた「プログラム」内では、これとは別のプランを立てていたかと思います。その時のメソッドで今回の事例に影響したことはありますか?
今回の事案と以前受講したプログラム内で提案した事案を同時並行で進めていました。おかげさまで、事案を進めるための「考え方」を、今回の「イノベーションアワード」のプロジェクトに活用することができました。あのプログラムを受けてなかったら、また違った結果になったかなと思っています。
我々と違う分野で働く方々にどうモチベーション上げて協力してもらえるのかというメソッドが、今回のプロジェクト実施にとても有効でした。
さらに、対話する中で彼らも気付いていなかった潜在的な問題や課題をどんどんあぶりだす、話をさせて気づかせていくメソッドを使わせていただきました。彼らにとって、「私たちと協働することでどういうメリットがあるのか」とか「そもそも自分たちにこういう問題点あった」と気づいてもらったんです。
―相手に、『確かにそうですね』と感じさせたり、話しているうちに自ら『これは問題なんだ』と気付かせるといったアプローチは重要だったんですね?
そうです。新聞社の下に、各販売店を束ねる新聞販売サービスの会社があるので、その方々にお話をすれば実施することができると思ったのですが、結局最後に動いてもらうのは各販売店なので、そこで働く方々をどうやって動かすかが重要だったんです。
結局、新聞社本体の直接的な問題解決ではなく、販売店の問題解決をするために、私たちは新聞社に対し、販売店についてどんどん質問しました。
そうしたら、『確かにこういった問題ありますね』と、どんどん彼らの口から出てきたんですよね。
販売店自体の問題ってそんなに考えられてなかった。新聞社本体は、そもそも業界の知識のない私たちから素朴な質問をされると、『そういえば、販売店は独自にイベントをしていた。地域の人たちに貢献したいからと聞いたことがあります』とか。
そして、『新聞配達以外にサービスを充実したいという考えは確かにあります』とか『なにか方法を探しています』と、次々に課題や機会が出てくるんです。
―販売店さんの困っていることを引き出して、『確かに解決したいよね』と彼らが動き出したくなっちゃった、という感じですね。
そうですね。すごく質問しました。
質問と傾聴は、気付いていなかった問題点をどう顕在化させるか、という点ですごく機能しましたね。
―これから先、どんな活動をしていきたいのかを聞かせていただきたいです。
今回の取り組みで、新聞配達員を活用した販売モデルのポテンシャルが確認できました。次は、コーヒー以外のシニア向けの通販専用製品をお届けするなど、裾野を広げていけるのではないかと思っています。
通販があるのは知っているけれど、なかなか利用できていない方に向けて新聞配達員が「お届けできますよ」とお知らせする。そうすると週末にわざわざ外出して買い物したり、重たいものを持たなくても済みます。今回出来上がった仕組みを使って、そういった方々の問題を解決できることにもつながると考えています。
―他になにか展開は考えていますか?
私は今回「イノベーションアワード」の金賞を取らせてもらったので、社内の同じチームの人たちに、こうした「考え方」や「ステップ」を浸透させたいと思っています。
私がつながりのある社外の関係者をチームメンバーに紹介することで、外部のインプットからインスパイアされる、第二第三の新しいアイディア、ビジネスモデルを作ってほしいと思っています。
―こういうのって上司の影響が大きいと思いますが、リーダーの方の部下の力の引き出し方ってどうですか?
私の上司は基本的にやりたいことをやらせてくれます。1から100まで説明しないとやらせてくれない人もいるけれど、私の上司はポイントを確認できたら、『もう大丈夫。どうぞやってください。』と承認して、実行のサポートをしてくれます。
もちろん、今回の取り組みに関しても適切なアドバイスをもらいました。プロジェクトの進捗が悪いことを相談するとアドバイスだけでなく、助けとなるパートナーを紹介してくれたりもしました。
―なるほど。そんな上司だと仕事がやりやすのではないですか?
とてもやりやすいですし、仕事にも前向きに取り組めて楽しいです。そもそも、この「イノベーションアワード」のように、会社自体も、既成概念に捉われない、イノベーティブ考え方を持って行動することを推進する風土だということもあると思います。